カラシニコフ自伝 (エレナ・ジョリー著)

息子が興味持つかなあ、と思って買った「カラシニコフ自伝」を自分で読んでみたところ、面白すぎた。カラシニコフの伝記なんてミリヲタ息子による銃器啓蒙活動がなければ一生読む事はなかったと思うので、息子に感謝している。
カラシニコフは、世界で最も普及している銃「AK47」の設計者である。

カラシニコフは、レーニンの恐るべき「富農処罰政策」により、シベリアの不毛地帯に強制移住させられた流刑農民の息子だった。強制移住前は幸せな家庭だったのだが、流刑地では家族が次々に栄養失調や過労で死んでいく悲惨な日々を過ごした。そして、そのような理不尽な運命を打開すべく15歳で村を脱走。自ら偽造したビザを所持して出自を偽り、戦場で独学で銃の知識を会得していった、という生い立ちだけでもシャア・アズナブル並みの魅力的キャラ設定ではありませんか?

類いまれなる銃設計の才能を発揮したカラシニコフは、やがて存在そのものがソ連の最高軍事機密となっていく。地図にのらない秘密の村に隔離されて銃を製造する日々。彼が敵対国であるアメリカ人と交流したのはなんと90年代になってから。ある武器歴史学者が、世界で最も有名な銃の設計者でありながらミステリアスな存在であったカラシニコフに、インタビューを申し込んだことがきっかけであった。
アメリカに渡航した際、戦争中はライバルであった西側の有名な銃設計家たちがみんな自家用飛行機を所有するような大富豪になっている事を知っても、カラシニコフが資本主義社会を全く評価しないのが良い。カラシニコフは世界で最も売れている銃の開発者であるが、印税や配当のようなものは一切もらっていないのだ。暮らしぶりは「足りないものはないが、贅沢なものもない」だという。

カラシニコフの人生はロシア革命から冷戦終結までのロシア近代史と重なっており、生活の様子もとても興味深い。また彼の家族を死に至らしめたレーニンを「尊敬している」と語る点も部外者には理解しにくいのだが、彼にとっては必然的なことなのだろう。その体制の中でしか生きてゆけなかったのだし、その体制の中で最高の尊敬を集めた人生だったのだから。

生き様が気高くて、全くぶれない強い信念を持っていて、しかし作っているものは殺戮に使われる銃。うーむ。不謹慎なんだが、やっぱりシャア・アズナブル的な萌えキャラだなあ。2次元好きの女子は、これ読んだらカラシニコフ好きになっちゃうと思うよ。見た目もいいしね。

新書を新刊で買うとカッコイイ写真付きの帯が付いてくる。

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