今回の金沢旅においては念願のお茶屋遊びなど、珍しい体験を色々させてもらったけど、もしかしたら一番インパクトがあったのは「純喫茶ローレンス」かも。
五木寛之先生も金沢時代に通い詰めたという伝説的喫茶店である。
瀟洒な60年代和製ヨーロピアン様式のビルヂングの最上階にそのミステリアスなカフェは存在する。外観はまるで「ぼくの伯父さん」の家みたいな雰囲気。
らせん外階段を上ってアクセスする屋上ハウスは、ローレンスのオーナーのご自宅なのかな?60年代にこんな住居に住んでいるのって、まるで少女漫画のオシャレ夢空間…。
ほの暗い塗り壁の階段を登っていくと、ホコリをかぶった彫像に見守られた閉鎖的な雰囲気の扉がある。
この時点で、心がくじけて入店をあきらめる人も多いだろう。
頑張って扉を開き店内に入ると、そこは魔窟。
もともと相当オシャレなカフェーだったと思しきロマンチックな内装がすっかり年老いて、室内の半分は巨大なドライフラワー群に覆われている。
ソファーも破れる寸前。そして岸田今日子的な幻想少女おばさんがやけにフレンドリーに対応してくださるのだ。
スタッフは彼女1人で、メニューもドリンク数種類のみ。しかし一点ずつ非常にこだわって作っているらしく、私は市場に流通しないタンザニア大使館専用のコーヒーを頂いたよ。
美味しかった。
フードメニューはないけど、チョコパイとココナッツサブレが無料でついてくる。
昭和レトロ空間大好きな私ですら最初は怖いな、と思ったんだけど、しばらく座っていると奇妙な安らぎにつつまれるよ。少女おばさんの独り言のようなトークとか、死の気配が漂う空間とか、全部が懐かしいような気分になってくるのだ…。
面白かったのは、客層が若い子ばかりだった事。若い子が次々にやってきて店内に入れないので、少女おばさんに謝られていた。
本物志向の若者たちが、現代のマーケティング社会にはないワイルドな何かに惹かれて集ってくるのだろうか?サイバー空間で育った若者たちがそういう嗅覚を持っていて、この現代的合理主義と真逆のアーティスティック空間に吸い寄せられてくるということに、なんだか救われるような気持ちがした。