「真夜中の天使(栗本薫)」に美女と美少年の悲劇を想う

「真夜中の天使」(栗本薫著)は、TBSのカルト・ドラマ「悪魔のようなあいつ(1975)」へのオマージュ的な小説。

「悪魔のようなあいつ」の内容を超ざっくり説明すると以下のような感じ。主演の可門良(沢田研二)が、実は3億円事件の犯人で、時効までなんとか逃げ切ろうとしているのだが、死病におかされていることも発覚。ジュリーの運命やいかに?!

ただし、重要なのはストーリーではなく、ジュリーの幻惑的な存在感そのものなのである。可門良ジュリーは、BL、男娼、犯罪者、死病、歌手、孤児、ネコ好き、という全ての萌え要素がぶち込まれたキャラで、22時からお茶の間で垂れ流されていたことがにわかには信じがたいような尊い内容のドラマなんですよ。この説明にピンっときた人は、絶対にハマると思うのでぜひご覧くださいね。

追記・可門良ジュリーの衣装についてまとめたこのサイトが素晴らしい。

栗本先生も、このドラマにハマったらしく、この小説は一種の二次創作。
読んでみると、主人公の絶世の美少年ジョニーは沢田研二というより郷ひろみとか、

もっと言えば「風と木の詩」のジルベール的なイメージだけどね。(少年の名はジルベールのブログはこちら)

一方、ジョニーの愛人であり、ジョニーを栄光のアイドルに仕立て上げる敏腕マネージャーの滝は、明らかに「悪魔」で沢田研二を雇っているキャバレーの主人藤竜也のイメージ(画像右側)。

ストーリーも、ドラマとはあまり関係ない感じ。実在する70年代のセレブたちがモデルと思われるキャラが多数登場する芸能界の裏事情ドラマ。スマートな人気作詞家は都倉俊一あたりがモデルなんじゃないかなあ、と思った。

60~70年代の音楽業界人って、浮世離れしたかっこいい人多いよね。音楽が特権階級の遊びだったからかな。

一言で言えば、少女向けエンタメBL小説なんだけど、構成とかリズムとか文章力が素晴らしい。高級ファンシー。ティーンの頃、栗本薫の少女小説をいくつか読んだ事があって、その時も「女子供向けエンタメ+高級な仕上がり」のバランスに感動したんだよ。そして今改めて栗本薫に圧倒される。しかもこの人超多作だよね。肩肘はらず最高品質の娯楽作品を大量生産する感じがすごい。

アイドルとしてのし上がっていく美少年と、彼を取り巻く大人の男や女たちの欲望と駆け引きの物語。キンドルだと単行本6巻のボリュームなんだけど、やめられなくなって、ついつい最終巻まで読んでしまった。しかしジワジワ毒がまわるというか、面白く読んでいるうちに、だんだん登場人物たちのメンタルの不安が伝染してくるよ。

ジョニーは不幸な生い立ちゆえに、愛してくれる庇護者を切望している。しかし周囲の人々はみんなジョニーを「性的な対象」として崇拝し魅了されており、誰もジョニーに「共感する」ことはできない。男も女もジョニーをチヤホヤして愛を囁くものの、ジョニーの真の幸せを考える者はいない。挙句、愛人たちは嫉妬に狂ってジョニーに殺意を抱くようにさえなるのだ。そんな崇拝者たちの暗い情念を吸い上げて、ますます妖艶に開花するジョニー。

このジョニーの境遇の悲劇性は、わりと多くの女性(と美少年)が経験している事なんじゃないかと思う。狂ったストーカーに襲撃されるとか、フラれた腹いせにパワハラとか、病的な嫉妬心とか、そういうモノに命すら脅かされた経験のある女性をたくさん知っている。そういう理不尽な「愛の押し付け」に困惑して、男性嫌悪に陥っている女性(と美少年)も多いかもしれない。

女性が美少年を好むのは、たいてい男性が美少女を好むのとは真逆のベクトルである。美少年が好きな女性たちのなかで、美少年を性的対象として愛でている人は少ないはず。むしろ「美少年」に自分を投影する事で、自己を救済しようとしている人が多いのではないだろうか。

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